氏原英明氏による『「甲子園」の眺め方』書評全文

 2018年の夏に刊行されるや問題提起の書として話題を呼んだ、新潮新書『甲子園という病』の著者であるスポーツジャーナリスト・氏原英明氏(twitter:@daikon_no_ken、ブログhttps://ameblo.jp/grade-report/)が、『「甲子園」の眺め方』の書評をして下さいました。
今回、氏原氏と発表媒体『しんぶん赤旗』の許諾を得て、全文を公開いたします。

 昨今の甲子園高校野球の報道というと感動ストーリーであることがほとんどだ。朝日新聞を中心とした「甲子園メディア」がそうした流れを作ってきたが、そんな美談ばかりに回収されず、かといって、アンチテーゼに走ることもなく甲子園を歴史から読み解いたのが本書だ。

 なぜ、日本にはこのような大会が存在し、人をひきつけてきたのか。甲子園が今の形態になった歴史をひもといていくと知られていない事実に直面する。意外だったのは本大会が開始された初期に東京朝日新聞が、野球界の諸問題「野球と其(その)害毒」の連載をしていたことだ。そしてここでの指摘が今の高校野球界の諸問題にまさに該当している。

 本書を引用すると、①選手の学業不振②選手不品行③不均等な身体発育④学業での選手優遇⑤入場料徴収⑥遠征⑦選手制度⑧学校宣伝⑨勝利至上主義。実は試合前後の整列や開会式の入場行進はこうした「害悪論」を鎮め、大会を正当化するために誕生し「礼儀正しい高校野球」という今の体を作った。本書を読み進めていくと、かつて触れられなかった歴史が提示され、甲子園の「定着」や人気獲得の要因が浮かび上がる。

 戦前はなかった日本高校野球連盟はなぜ誕生したのか。いわゆるスポーツメーカーの関わりや甲子園がいかにして「国民的行事化」したのか。それらには高校野球を利用する大人たちの存在が見え隠れしているが、甲子園を歴史からながめてみることで、その「偉大さ」と同時に、他競技と違い興行として成り立つ規模の大きさを持っていた「異質性」をうかがい知ることができる一冊である。

――氏原英明(スポーツジャーナリスト) 掲載媒体『しんぶん赤旗』2019年1月20日読書面

「甲子園」の眺め方

白川哲夫・谷川穣編『「甲子園」の眺め方』
本体価格3,500円 2018年10月刊行
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